プラントデータの定期的な計測

現在のプラントの状況は、事故以降、継続して取得されている温度、水素濃度、圧力等のPCV内部のプラントデータから1 号機~3 号機は安定した冷温停止状態を維持していることが推定できる。

(1) PCV 内の基本プラント情報の測定

燃料デブリの状態が安定していることを確認することができるPCV 内のプラントデータのこれまでの状況についてまとめる。

a. 温度

事故時の燃料溶融は、停電により燃料集合体からの崩壊熱を速やかに除去できず、温度が1000℃ 以上に上昇したところへ燃料被覆管(ジルカロイ)と水蒸気との急激な酸化反応(Zr+2H2O→ZrO2+2H2+586kJ/mol)による発熱が加算されたことで生じている。

図1に東京電力が公表している情報を基にまとめた原子炉の周辺温度の変化を示す。PCV 内の温度は、事故直後より低下し、事故後半年で100℃以下に達した。その後、気温・水温の季節変動に追従しながら、1 年ごとに徐々に低下傾向を示している。また、PCV 内の各場所で50℃以下を維持し、急激な温度ピークも示していない。低温において、ジルカロイは水と反応しないことから酸化反応による新たな発熱は無いと推定できる。

図2に事故時に装荷されていた燃料集合体を構成する元素からの発熱(崩壊熱)を示す。原子炉停止直後は短寿命核種からの崩壊熱が多いが、事故から5 年を経過すると、事故時の1000分の1 以下まで発熱量が低下している。長寿命核種のみが残存するが、その半減期は長く、崩壊も緩やかに進行するため、崩壊熱も徐々に低下するとみられる。今後は時間の経過とともに、さらに温度は低下すると推定できる。

b. 水素濃度及びPCV 圧力

水にガンマ線が照射されると、放射線分解により水素が発生する。PCV 内は燃料デブリを冷却するために、注水を実施しているとともに、 PCV 内は高い放射線量であることから水素の発生が懸念される。水素は可燃下限が4%と低いことから、事故後PCV 内へ窒素封入による水素の希釈を行い、水素爆発を防止している。図3及び図4に、それぞれPCV 内の水素濃度の変化及びPCV 圧力の変化を示す。水素濃度は十分に低く、窒素封入の希釈が有効に作用していることがわかる。FP の閉じ込めの観点からは、PCV から水素を吸引・排気ことも考えられるが、建屋周囲の大気圧(1 気圧)より減圧(負圧)しすぎると損傷しているPCV のシール部等から酸素を含む大気がPCV 内へ流入し、水素と酸素の混合状態となることが懸念される。このため、図4に示すように、わずかに大気圧より高い圧力(微正圧)を維持している。

これらのことから、1 号機~3 号機において、安定した冷温停止状態を維持していることが推定できる。

1号機の温度 1号機の温度測定位置

2号機の温度 2号機の温度測定位置

3号機の温度 3号機の温度測定位置
(データ取得元: 東京電力 
図1  福島第一原子力発電所の原子炉周辺温度の履歴



図2  炉内の燃料、FP、放射化物からの発熱量


1号機のPCV内水素濃度
2号機のPCV内水素濃度

3号機のPCV内水素濃度
(データ取得元: 東京電力 
図3  PCV 内の水素濃度の変化


PCV圧力
(データ取得元: 東京電力  気象庁 
図4  PCV 圧力の変化