知見及び実験による推定は、過去の事故・研究の知見による推定、プラントデータからの工学的な推定、模擬デブリによる実験の3 つに分類できる。
過去の炉心溶融事故としては、TMI-2 とチェルノブイリ原子力発電所4 号機の事故が挙げられる。これらから得られた知見をRPV 内挙動の推定やMCCI による挙動の推定に活用する。過去の研究からは、フランスのPhebus 炉を用いて行われたFP 試験、米国のアルゴンヌ国立研究所で行われたMCCI 試験等があり、事故進展解析コードのモデルとして成果が反映されている。
プラントデータからの工学的な推定としては、熱バランス法による燃料デブリ分布評価やプラントパラメータからの考察がある。
模擬デブリによる実験としては、TMI-2 等を参考に福島第一原子力発電所の事故事象進展を考慮して模擬デブリを作製し、作製した模擬デブリを用いて機械的、化学的、物理的特性等のデータを取得している。
ここでは、これまでの燃料デブリ分布の推定のためのプラントデータからの工学的な推定と模擬デブリによる実験等による燃料デブリ性状の推定状況についてまとめる。
RPV へ注水されている冷却水がRPV 内とPCV 内の熱源(燃料デブリ)によって滞留水温度まで昇温すると仮定した熱バランス、すなわち、入熱(注水の熱量と崩壊熱)と放熱(PCV 壁面から建屋又は大気への放熱及び燃料デブリによる冷却水の昇温)がバランスすると仮定して、RPV内とPCV 内の燃料デブリの割合を推定した。熱バランス法の概要及び推定結果はこちら(NDF技術戦略プラン2016, page A-28, A-29, A-30)。
事故後のRPV 周囲の温度、S/C 水温、給水(以下「FDW」という。)系及び炉心スプレイ(以下「CS」という。)系の注水量等のトレンドからRPV 内の熱源(燃料デブリ)の有無について評価した。FDW 系は、BWR の通常運転時に復水器で冷却された冷却水がRPV 内へ導入される系統である。RPV 底部が健全であれば、流れ込んだ冷却水がRPV 内に溜まり水位が上昇するが、水位上昇が認められないことからRPV 底部が損傷しており、損傷箇所からペデスタル内側に流れ落ちていると推定される。すなわち、事故後のFDW 系注水では、RPV 底部は冷却できても、炉心部分を冷却できないことを意味している。それに対し、CS 系は冷却材喪失事故時の炉心スプレイ系であり、炉心直上の炉心シュラウド内壁に沿って設置されている。CS 系注水では、炉心からRPV 底部までの空間を冷却水が流れ落ちて、当該空間の冷却が可能である。 これらを踏まえて、号機ごとに燃料デブリの位置を推定した。推定結果を表2に示す。
なお、上記の推定方法及び結果は こちら。
表2 プラントパラメータのトレンドからの燃料デブリ位置の推定結果
燃料デブリの取り出し・収納・保管等の検討においては、炉内に存在する燃料デブリの特性に関するデータが必要になる。このため、これまでに得られている知見(TMI-2 事故事例、シビアアクシデント研究等)に加え、模擬デブリを用いた分析・試験を実施し、これらのデータを基に燃料デブリ性状を推定している。
また、炉内等から実際に取り出す燃料デブリを分析・測定するために必要な技術の開発についても行っている。
模擬デブリを用いた特性評価では、金属デブリの特性、福島第一原子力発電所事故に特有な反応による生成物の特性、性状不均一性に係る特性等について評価を行っている。
燃料デブリの中の金属相に含まれることが示唆されているジルコニウムに酸素が固溶したZr(O)等の機械的特性等を測定している。
燃料、ステンレス酸化物、FP 元素、海水塩成分が固溶した模擬燃料デブリの生成相、機械的特性等のデータを取得している。
国内で実施が困難であった大きな塊での不均一性に係る評価のため、仏国CEA において大型のコンクリート反応生成物(MCCI)の機械的特性に関する特性評価試験を行っている。また、カザフスタンの国立原子力センターにおいては大型の金属セラミックス溶融固化体の特性評価試験として、溶融物が水冷固化した粉状の燃料デブリ及びその凝集固化物の粒度、密度、組織等の物性データを取得している。
上記の模擬デブリを用いた特性評価の結果に加え、これまでに得られている知見(TMI-2 事故事例、シビアアクシデント研究等)から燃料デブリ性状を推定し、特性リストにまとめている。具体的には、事故進展解析によって推定された燃料デブリの位置ごとに、文献調査や実験結果を踏まえた考察等により圧縮強度やウラン含有率などのマクロの性状及び機械的特性や熱伝導度のような熱的特性などのミクロ性状を推定して取りまとめている。
また、燃料デブリの外観・形状についても、事故進展解析によって推定されたRPV/PCV 内に分布する燃料デブリに対して、TMI-2 の事例や試験を基に暫定的に性状を推定している。(NDF技術戦略プラン2016, page A-34, A-35, A-36)
今後も燃料デブリ取り出しの検討に必要な燃料デブリの性状に関する情報のニーズを踏まえつつ、総合的な炉内状況の分析・評価と連携して上記の特性リストの更新を図ることにしている。
実デブリの性状(機械的特性、化学組成等)を把握することは実デブリの安全な取り出し等に必要な情報である。このため、燃料デブリの性状に関する必要な情報が洩れなく合理的に得られるように、関連プロジェクトからの分析ニーズを分析計画として取りまとめた。
また、これまでに経験したことのない状態で形成された燃料デブリ等を扱うことから分析全体フローの検討を行い必要な開発項目を抽出し、実燃料デブリ溶解法や化学形態分析方法などの分析技術の開発を行っている。合わせて、高線量試料の輸送に必要な輸送容器の検討などを行っている。これらの検討は燃料取り出し工程や分析施設の整備工程を踏まえながら着実に進めていく。
実デブリの分析施設に関しては、高線量の試料を扱える試験施設が必要であるが、現状ではJAEA 等の茨城地区の既存施設が利用可能と考えられるものの、多岐にわたる要求を満足させることができないため、大熊町に放射性物質分析・研究施設(第2 棟)の整備が計画されている。
実デブリの性状分析に関しては、分析優先度や分析頻度、分析時期等を含む分析計画を検討更新し、的確に放射性物質分析・研究施設(第2 棟)の仕様や運営方法に反映することが必要である。なお、分析計画策定においては、燃料デブリの取り出し段階、燃料デブリの安定保管段階、廃棄体化処理・処分段階の分析ニーズ、さらには事故炉の安全研究ニーズなど、中長期にわたっての分析ニーズを満足させるとともに、分析施設については必要に応じJAEA 等の茨城地区の既存施設の活用を検討することが有用である。
得られた分析データの解析・評価に当たっては、これを利用する国内外専門家等の意見などを取り込めるような仕組みも合わせて検討することが必要である。
分析試料の収納、輸送については、燃料デブリの本格取り出しに係る収納・保管とは別に、分析試料を収納する方法、分析試料の収納容器、輸送容器等の検討が必要である。また、必要に応じ国外持ち出しに係る技術課題等の検討が必要である。
また、PCV 内部調査等に伴い採取できる可能性が想定される微量サンプルを用いた分析技術に係る課題等についての検討も並行して進める必要がある。