解析による推定に関する検討

目的

  1. 燃料デブリを取り出すための工法、機器・装置開発を検討するための基礎情報として、燃料デブリの量、位置、性状及びFP の分布を解析により推定する。

本文

解析による推定として、事故進展解析コードを用いて燃料デブリの量・位置・組成やFP 分布の推定を行う。過去のジルカロイ酸化試験や酸化ウランの溶融試験等で得られたデータを基に各解析コード固有のモデルを考案し、事故の進展に応じた注水量やSR 弁の開閉等のシナリオを入力して解析結果を取得する。

事故進展解析は、採用している計算モデル、想定シナリオに強く依存し、計算結果は不確かさを含むことになるが、炉内の各位置における燃料デブリの量、組成、FP 分布等の定量的な情報を取得することができ、事故の全体的な状況を把握するのに有効な手法である。また、事故進展解析により事故進展時の炉内の温度履歴を推定し、その結果を用いて炉内の主要構造物及び機器の状態推定を行っている。

さらに、国際共同研究として、OECD/NEA のBSAF(Benchmark Study of the Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant)プロジェクトが進められており、このプロジェクトでは、国内外の13 機関が事故進展解析により炉内状況の推定を行っている。

以下に、これまでの解析による推定状況についてまとめる。

(1) 事故進展解析コードによる解析結果

事故進展解析コードである MAAP コードとSAMPSON コードを用いて、燃料デブリの量・位置及びFP 分布を推定する。両コードについては、福島第一原子力発電所の燃料デブリやFP の挙動を評価する上で必要な物理現象モデルの追加や改良(NDF技術戦略プラン2016, page A-20)などを継続して行ってきてきた。2015年度にはこれらの改良を完了し、改良したMAAP コード及びSAMPSON コードを用いて、燃料デブリの量・位置・FP 分布等の解析を行った。

また、2015 年度には各号機に特徴的な事象に着目した解析を行った。この解析では、感度解析によりプラント挙動のメカニズムの解明や解析の不確かさの低減にも取り組んでいる。例えば、2 号機では、RPV 減圧後に3 回の圧力上昇挙動(圧力スパイク)が測定されていたが、MAAP コードを用いて燃料デブリと注水との反応による水素・水蒸気の生成からこの圧力挙動を再現した。(NDF技術戦略プラン2016, page A-21)

コンクリート反応生成物(MCCI)の評価については、これまでの評価により1 号機ではRPV破損が生じて燃料デブリの大部分がペデスタル部へ落下している可能性が高く、コンクリートの侵食、MCCI の生成量の評価が重要であること、また、福島第一原子力発電所のペデスタルはサンプピット等を含む複雑な形状であることからSAMPSON コードの中のMCCI 評価モジュールに浸食コンクリートの移流・拡散モデルを追加し、1 号機について燃料デブリの広がり・侵食挙 動評価を行った。評価の結果(NDF技術戦略プラン2016, page A-22)、1 号機ではD/W 床面積のかなりの部分に燃料デブリが広がる結果となった。

以下にMAAP コードとSAMPSON コードによる燃料デブリの量・位置及びFP 分布の解析結果をまとめる。また、事故進展解析による温度推定に基づく炉内構造物及び機器の状況の推定結果を示す。

  1. 燃料デブリの量・位置
  2. 燃料デブリの量・位置の解析結果を 表1に示す。事故進展解析コードには、各コードが使用しているモデルによる特性、入力シナリオが含む不確かさ等を有していることから、解析結果を使用する際には、結果に含まれる不確かさを考慮する必要がある。 表1に解析結果の事故進展解析コード間及び各号機間の比較における特記すべき事項を示す。

    表1 事故進展解析コードによる解析結果 [単位:ton]
    場所 成分 1号機 2号機 3号機
    MAAP SAMPSON MAAP SAMPSON MAAP SAMPSON
    炉心部 0 0 0 13 0 29
    RPV底部 15 10 25 58 25 79
    ぺデスタル内側 燃料及び構造材 109 79 92 76 103 53
    コンクリート 78 130 37 14 51 20
    ぺデスタル外側 燃料及び構造材 33 52 102 5 96 0
    コンクリート 52 0 4 0 6 0
    合計値 287 271 260 166 281 181

    [データの出典: IRID 平成27年度研究開発成果「事故進展解析及び実機データ等による炉内状況把握の高度化」完了報告, シートNo. 24

  3. FP 分布
  4. MAAP コード及びSAMPSON コードにより、RPV 内、PCV 内及び原子炉建屋内等のFP 分布を解析した。解析の結果、FP 核種によって両コードによる解析結果に大きな差異が見られた。代表的なFP 核種であるCs 及びSr の分布の解析結果を こちらにまとめる。両コードの解析結果に大きな差異(不確かさ)がある理由は、FP 評価モデルの相違や評価モデルで考慮するFP核種の化学形態が異なることによるものである。

  5. 主要構造物及び機器の状態推定
  6. 燃料デブリ取り出し時には、現状の炉内機器の状態が必要であるが、事故時にこれらの機器が経験した環境(温度)の測定値はない。このため、事故進展解析(MAAP コード及びSAMPSONコード)による温度評価結果を元に炉内機器の状態推定を実施した。今回の推定においては解析結果からだけではなく、現場の状況等から推定される情報も参考とした。評価対象とした構造物及び機器の劣化事象は、高温変形、クリープ破断及び腐食劣化とした。それぞれの劣化事象の評価基準をこちら(NDF技術戦略プラン2016, page A-24)に示す。

    評価の結果、ドライヤ(蒸気乾燥器)、セパレータ(気水分離器)、上部格子板、炉心支持板については、各号機ともクリープ変形が発生している可能性がある結果となったが、この評価結果を使用する際には、今回の事故進展解析(MAAP コード及びSAMPSON コード)には不確かさがあることを考慮する必要がある。他の炉内構造物に対する推定結果を含めた、全ての推定結果をこちら(NDF技術戦略プラン2016, page A-25, A-26, A-27)に示す。

    また、今回の評価で用いた温度評価結果は、2014 年度の解析結果を参照しているため、今後最新の解析結果から影響を確認する必要がある。なお、「圧力容器/格納容器の健全性評価技術の開発」において、解析に基づく事故直後の温度データを考慮し、事故直後から40 年間の腐食減肉量を加味した耐震強度評価を行った結果、2 号機のRPV、PCV 及びペデスタルともに発生応力は許容値を下回ることを確認している。

(2) OECD/NEA のBSAF における解析結果

OECD/NEA のBSAF プロジェクトのPhase-1 において、国内外の13 機関による1~3 号機の地震後6 日間の事故進展解析が行われた。この解析結果を表2に示す。

2 号機及び3 号機の解析結果において、燃料デブリがRPV に留まる結果とPCV に落下する結果とに結果が分かれている。これは、2 号機については炉心から下部プレナムへの燃料デブリの移行のモデル化及び最も不確かさが大きい消防車注水量の想定に依存したものと考えられる。3号機についてはHPCI 注水挙動の想定(RPV 減圧時の注水量)の違い、すなわち、HPCI を駆動させる蒸気流量の最大量や周期が解析を実施した機関によって大きく異なっていることが影響したと考えられる。

OECD/NEA のBSAF プロジェクトは、Phase-1 に引き続いてPhase-2 が進められている。Phase-2 では、2015 年4 月から2018 年3 月までの3 年間を実施期間とし、11 か国22 機関が参加し、最新の知見を取り込んで地震後3 週間の事故進展解析を行って解析の高度化を図るとともに、FP の炉内構造物への付着状態やMCCI の特性などに関するワークショップなどを通してシビアアクシデント解析に関する知見を共有することとしている。約2 回/年のペースで進捗(PRG)会合及びワークショップを開催し、2016 年末には中間報告を、2018 年3 月には最終報告を取りまとめる予定である。

表2  BSAF Phase-1 における燃料デブリ分布評価結果

また、OECD/NEA のSAREF(Safety Research Opportunities Post-Fukushima)においても廃炉や安全評価に関するプロジェクトが検討されており、これらのプロジェクトを通して海外の叡智を結集していくこととしている。

参考文献