総合除染試験

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 TMI-2事故炉のクリーンアップを進めるためには、作業員クルーが原子炉建屋内にルーチン的に立ちいる必要がある。そこで、1981.7月に、DOEが原子炉建屋内の総合除染試験を提案した。専門家のレビューを経て、当初計画では1981.11月から実施されることとなっていた。しかし、NRCによる承認の遅延、除染に用いる設備の機能確認試験の遅れ、などにより、1982.2.26 ~3.30にかけてTMI-2原子炉建屋内の総合除染試験が行われた[1]。ここでは、その概要と得られた知見をまとめる。また、総合除染試験が行われた翌年の夏に、原子炉建屋内の線量急上昇イベントが発生したため、除染項目を短期と中長期に分けて、現場対応が行われた[2]。その検討タスクフォースの議論も本項目にまとめる。

総合除染試験のねらいと目的

 原子炉建屋内でのクリーンアップ作業において、作業員が主に立ち入るエリアについて、以下が直接の目的とされた。

  • 空間線量の低減
  • 機器や壁面に付着している汚染の低減
  • 放射性微粒の低減
  • 物理的な作業環境の改善
  • ALARA概念に基づく除染作業の実施

さらに、事故炉を利用して、建屋除染に関するエンジニアリングやオペレーションについて、実機レベルでの総合試験の場を提供することで、以下に関する知見が得られるとされた。

  • 各種の除染技術の有効性と効果の検証
  • 除染基準策定に関する知見取得
  • 各種の除染設備や技術の現場試験
  • 除染作業員の訓練、および、現場作業手順書の作成
  • 現場線量のモニタリングと線量マップの作成
  • 除染支援システムの整備(観測系、伝達系、建屋設備、等)

除染作業を進めていく上で、後者の目的に向けて、除染作業の実施自体が目的化してしまうことが教訓として報告されている。

図1 TMI-2の原子炉格納容器内の概略構成 [3]
図2 スピンジェット装置の外観 [4]
図3 ハンドランスと床面洗浄装置の外観 [4]

除染対象エリアと機器・設備

 試験実施まで、様々な観点での計画修正が行われた。また、合計で39回の原子炉格納容器内のエントリーが行われ、現場状態の調査や予備的な除染作業が行われた。総合除染試験前には、格納容器内は物理的、線量的の双方の観点で汚れていた。

 物理的な汚れの主な原因は、事故進展中に、RCDT(Reactor Coolant Drain Tank)から一次系冷却水が水蒸気として放出されたことによる(#この事象は、282フィートレベルで発生した)。また、建屋エアクーラーの緊急冷却用の河川水が加圧されたことで、約1892.5m3の冷却水が305フィートレベルに放出されたことによる。総合除染試験の時点では、事故後2年間が経過しており、これらのイベントで発生した水蒸気により、金属機器の表面が腐食していた。また、ライナー塗料は一部はげ落ちていた。特に、LOCAダクト上のドームの塗料のはげ落ちが激しかった。これは、河川水の濁り成分による化学的な劣化が原因であった。

 線量的な汚れの原因は、RCDTからの水蒸気放出にともない、放射性物質が放出されたことによる。汚染の主要核種はCs-137であり、Cs-134の約10倍、Sr-90の約15倍の線量であった。入域ハッチのある305フィートレベルで、Dリングなどのある347フォートレベルよりも汚染が大きかった。ポーラークレーンの汚染レベルはそれより小さい値であった。空間線量も305フィートレベルで大きい値であった。また、一般に水平面の汚染は垂直面より大きい傾向があった。表1表2に、総合除染試験前の代表的な汚染と線量のレベルを示す[1]。

表1 総合除染試験前の表面汚染レベル(Cs-137, Bq/100cm2)[1]
階層 表面 最小値 平均値 最大値
305フィートレベル 水平面(塗装コンクリート、SS材) 2.83 x 104 1.89 x 105 4.81 x 105
垂直面(塗装コンクリート、塗装炭素鋼) 6.28 x 103 9.50 x 104 9.61 x 104
347フィートレベル 水平面(塗装コンクリート、SS材) 4.06 x 103 1.09 x 105 6.28 x 105
垂直面(塗装コンクリート、塗装炭素鋼) 9.25 x 101 2.02 x 103 7.03 x 103
Dリング頂部 水平面(塗装コンクリート) 7.39 x 102 1.18 x 105 2.25 x 105
燃料交換Canal 水平面(SS材、塗装炭素鋼) 1.33 x 104 1.76 x 105 4.81 x 105
垂直面(SS材、塗装炭素鋼) 2.73 x 102 1.02 x 104 1.18 x 105
ポーラークレーン 水平面(塗装炭素鋼) 4.81 x 102 4.53 x 104 1.83 x 105
垂直面(塗装炭素鋼) 4.50 x 102 1.55 x 104 1.03 x 105
表2 総合除染試験前の空間線量レベル(mGy/h)[1]
階層 最小値 平均値 最大値
305フィートレベル 1.50 3.45 10.0
347フィートレベル 0.50 1.25 5.00
Dリング頂部 1.10 1.41 2.20
燃料交換Canal 0.50 1.70 3.40
ポーラークレーン 0.40 0.80 1.20

 最終計画では、原子炉圧力容器上部周辺の主要機器・設備(RPV上の円筒形のサービスストラクチャーなど)、作業員の移動に利用される階段、作業員が主に作業を行う305フィートレベルと347フィートレベルのコンクリートや鋼材の壁面や床面、ポーラークレーンとその周辺、燃料交換Canal(最深部、浅瀬部)の壁面や床面、燃料交換ブリッジとその周辺、Dリング外周部と頂部(Dリング内部に蒸気発生器や加圧器格納)、ミサイルシールド、にしぼって除染作業が行われることになった。あわせて、除染試験の前後で現場サンプル採集と分析が行われることになった。図1に、原子炉格納容器の概要を示す[3]。

 総合除染試験の開始時点では、建屋地階(282フィートレベル)に事故直後に放出された汚染水が滞留していた。その処理を行うSDS(Submerged Demineralizer System)が設置され、稼働準備が行われていた。建屋地階に向かう階段や、建屋地階のコンクリート壁面などは極めて高線量のため、除染作業の対象から外されることとなった。また、酸溶液や中性洗剤を用いた化学除染は、SDSへの影響を防ぐため、範囲を絞って実施されることtなった。

 総合除染試験に向けた準備作業として、以下が行われた。

  • ポーラークレーンへのアクセスシステム(spider shafterと呼ばれるリフト)の設置
  • 除染作業用の作業水供給系、電源系、圧搾空気系の整備(#本来の電源系統は282フィートレベルにあり、水没して使用不可だった)
  • データサンプリングシステムの準備(γ線測定器、写真/ビデオ撮影機器)
  • 閉鎖階段の除染系(高圧水、低圧水)の準備
  • 剥ぎ取りコーティング剤の準備
  • 除染工程、作業手順の作成

除染技術と除染手順の概要

 使用された技術は、低圧水フラッシング、高圧水フラッシング、床面洗浄用のスピンジェット装置(中性洗剤と酸性溶液使用)、剥ぎ取りコーティング剤、であった。

  • 低圧フラッシング: 室温水~60℃温水、流速約90L/分、しかし、ホースやノズル部分での熱や圧力ロスがあり、実際の供給水条件と異なる。
  • 高圧フラッシング: 圧力14~41MPa(設備やコーティングを破壊しない程度に圧力制御)、室温水~60℃温水、しかし、ホースやノズル部分での熱や圧力ロスがあり、実際の供給水条件と異なる。
  • スピンジェット: 回転ノズルから高圧水を供給。床面をこえて高圧水をスプレーすることで効率的に除染。床面スクラバー。圧力14~41MPa、最大流速約90L/分。図2に外観写真を示す[4]。
  • 剥離可能なコーティング: 標準タイプのコーティング剤(塗布・固化後に機械的に剥ぎ取り)、自力崩落タイプのコーティング剤(#実際にははがれにくかった)

除染手順

  • 再汚染をできるだけ防止するため、格納容器内の上部のポーラークレーン(420フィーtpレベル)から作業開始し、347フィートレベル、305フィートレベルに移動。
  • 305フィートレベルは、格納容器エントリーがあり、他の階へのアクセスルートとなっているため、ここだけは先行的に予備除染を実施
  • 作業手順は、どこでもほぼ同じ。
  1. 除染前のデータ測定
  2. 低圧ミスト噴霧(放射性微粒子の抑制)
  3. 対象領域の上部の除染(天井、上部構造物)
  4. 主要設備と壁面の除染
  5. 床面の除染
  6. 残留水の除去(モップふき取り、ドレインに押し流し、真空吸引)
  7. 除染後のデータ測定
  • この手順により、再汚染を減らすことはできたが、完全に防止することはできなかった。

除染作業の概要と結果

図4(a) 305フィートレベルの予備除染作業マップ [4]

305フィートレベルの予備除染

作業の概要

  • ハンドランスを使って、様々な流速で、室温水と温水での、低圧/高水量フラッシング(図3に、ハンドランスと床面洗浄装置の写真[4])
  • 洗浄水は、モップでドレインに押し流し(#残留水中の汚染物により、乾燥後の再汚染を防ぐため)
  • 4領域に分割して作業(図4(a)[4])(#頭上に様々なケーブルや配管類が通っており、床面からのフラッシング作業が難航した)
  • 除染された主要設備は、Core Flood Tank-AとB、エアクーラーなど(#エアクーラーのフラッシングは難航)
  • 領域-1,3,4(図4(a))のフラッシングも、様々なツールボックスや配管類に妨害されて難航

作業の結果

  • 305フィートレベルの予備除染作業は成功したが、いくつか課題が顕在化
  • アクセスが悪く、除染前後での頭上構造物のスミアデータが取得できず
  • フラッシング作業後に水滴が滴り落ち、下部を再汚染
  • 68℃の洗浄水を使用する計画だったが、48℃に低下(#ホースの保温ラインが必要)
  • 当初計画より水温が低かったため、今回の作業で得られた除染係数は、温水条件で得られる値より低くなった可能性
  • 相当量の埃やデブリが床面から除去され、物理的な除染には成功
  • 洗浄水の使用量は、約10L/m2
  • 表3(a)に、作業前後のDFをまとめる[1]。
表3(a) 305フィートレベル予備除染の結果 [1]
領域 表面 平均DF 除染率(%) 試験後の平均Cs-137レベル

(Bq/100cm2

1: 1.26L/秒、21℃ 水平面(塗装コンクリート) 1.1 9 7.69 x 104
2: 1.45L/秒、48℃ 水平面(塗装コンクリート) 42.0 98 7.86 x 103
水平面(SS材、防水シート) 18.9 95 5.58 x 103
3: 1.45L/秒、36℃ 水平面(塗装コンクリート) 2.8 64 1.01 x 105
4: 1.o7L/秒、43℃ 水平面(塗装コンクリート) 2.4 58 1.36 x 105
図4(b) 305フィートレベルの予備除染作業マップ [4]

ここから、DFの定義を記載

ポーラークレーンの除染

作業の概要

  • ポーラークレーンまでのアクセスルート整備(#347フィートレベルからの3人乗りリフト設置)
  • 除染作業実施にあたり、人数制限(最高3人)とアクセス性(リフト利用)が課題
  • 低圧水フラッシング(マニュアル用のランス、消防用の水キャノン)で、ポーラークレーンと圧力容器ドーム内面を洗浄
  • 流速0.95L/秒、温度21℃の水を使用(#モップは使用せず)
  • 面積が広く複雑な構造のため、作業性に課題(#約3.75L/m2の洗浄水しかかけられなかった)
  • クレーン表面のオイルやグリースは、低圧フラッシングでは十分除染できず
  • 追加で、スクラビング実施
  • 図4(b)に、ポーラークレーンの概要図を示す[4]。

作業の結果

  • 当初予想より低いDF=1.95(#49%汚染除去に相当)
  • 主な線源は、Cs-137で1.97x104 Bq/100cm2
  • 熟練作業員の不足により、除染前後のデータが十分に取得できず
  • 除染後データは、除染作業終了の3週間後にようやく取得(#かなり再汚染)

参考文献

[1] E.N. Lazo, The Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Gross Decontamination Experiment, Effects on Loose Surface Contamination Levels, Nucl. Tecnnol. 89 (1989) 407-420.

[2] R.S. Daniels, Three Mile Island Unit 2 Reactor Building Dose Reduction Task Force, Nucl. Technol. 89 (1989) 553-555.

[3] W.C. Holton, C.A. Negin, S.L. Owrutsky, The Cleanup of Three Mile Island Unit 2 A Technical History 1979 to 1990, EPRI NP-6931, 1990.

[4] R. Mason, Gross Decontamination Experiment Report, GEND-034, 1983.